第26章 君の居ない時間※
…舐めてた。
完全に舐めてた。
薬さえ貰っておけばすぐ治るモンだと思い込んでいた。
コイツが機転を効かせて此処に来なければ…
(…完全にお陀仏だったな。)
甲斐甲斐しく手ぬぐいを濡らしてきて額に乗せてくれたり、俺の体の状態を確認しながら何かに書いている神楽ほの花という女。
鬼殺隊だが、薬師としても働いているようで確かに手際は良い。
蘇生の様子は見られなかったが、俺が浅い知識でやった時とは比べものにならない程のモノだろう。
診療所じゃない分、余計な世話をかけているようで長押にかけられた点滴とやらは無理やり紐を括り付けているし、座るところもない狭い家で土間に座り込んで書き物をしている。
診療所なんて行かないと駄々をこねた結果、随分と迷惑をかけたらしい。
(まるで餓鬼じゃねぇかよ…。こんな糞餓鬼に世話かけるなんてみっともねぇ。)
だが、如何んせんどうにもこうにも体が重い。
今は動ける気がしないし、医療のことは全く分からないのだからこの女の言うことを聞く他はない。
「…鋼鐡塚さん。昼間はすみませんでした。」
それなのに急に話しかけたかと思ったら申し訳なさそうに謝って来たその女。
いや、今俺の方が心の中で申し訳ないと思っていたのに何故この女が謝るのだ?
意味が分からず、眉間に皺を寄せてその姿を見上げる。
「患者さんにも選ぶ権利がありますよね。治療を受ける場所をこちらが押し付けてしまってすみません。」
「…は?…その、方がそっちは都合が、いいんだろ…?なら、当たり前だろ。お前が謝ることじゃない」
治療を受ける側がそこは合わせる必要があることだろう。自分の方がそれを無視して自分の意見を押し付けたにすぎないのにその女は大して意に介さず言葉を続けた。
「此処に来て…一人死なせてしまったんです。その人は…家に帰ることも出来ず、診療所で亡くなりました。」
ぽつりと話し始めると悲しそうに目を伏せたその女だけど、月明かりが差し込んだことで息を飲むほど美しいと思ってしまった。