第26章 君の居ない時間※
人生というのは本当に一瞬なのかもしれない。
その患者さんは蘇生法で心臓は動き出したが、炎症が酷い肺が普通の呼吸をすることを阻んだ。
アドレナリンを投与したことで何とか心臓は持ち直したが、結局呼吸不全を起こして数時間後に亡くなった。
何をやっていたんだろうか。
ただ患者を苦しませる時間を増やしただけで救えなかった。
あの時、諦めた方がよかったのだろうか?そんな気さえしてくるほどの呆気ない最期で申し訳なさが募る。
スペイン風邪に侵された患者は家族に会うことも許されず、荼毘に付される。
これも感染拡大をさせないために必要なことなのだが、会わせてくれと言ってくる家族に事情を説明しても泣かれるだけでそれがつらい。
会わせてあげたい。
もちろん。
会わせてあげたいのは山々だ。
菌を持っている患者は死しても尚、変わらない。
私は…何をしに来たのだろうか?
目の前で患者も救えない。
患者の家族も悲しませる。
宇髄さんに顔向けできないことをする。
正宗達にも呆れられる。
それでもやるしかない。
薬師としてできることを最後までやる。
今はそれしかない。
そのために来たのだ。
「薬師さん…!お願いします…!一目…一目だけでも…!」
でも、そうやって懇願するご家族を尻目に頭を下げてお断りをする。
「…申し訳、ありません。菌がこれ以上蔓延すると困るのは他の里の住人の皆様なので…。皆様の命を平等に守るためにも…ご理解ください。」
「そんな、…そんなぁ…!お父さん…!お父さぁあん!!!うわあああああっ!!」
ひょっとこのお面の中は涙にまみれていることだろう。死に目に会えないということがどういうことなのか…。確かにつらいだろう。悲しいだろう。
そのつらさや悲しみは経験したことがない私は全てを理解することは難しい。
この家族は死に目に会えなかったということで一生悔やんで生きていくのだろう。
でも、それしかないのかな。
医療者としてそれが正しいのだろうか。
患者の命も救えなかった。
家族の心も救えなかった。
それでは
私は本当に何のためにきたのだろうか。
これではただの無能だ。