第2章 主人として
(また……その瞳をなさるのですか)
彼女は時折瞳を翳らせる。切なさと苦悩に染まった、悲壮な瞳だ。
(貴女は痛みも、悲しみも……知りすぎているのでしょう)
彼らさえも視えていないかのように、物思いに沈む瞳。
その指で煌めく指輪だけが、彼女のすべてを理解しているのだろう。
「っ………。」
そう思考に載せた途端、鈍い痛みが広がった。
彼女のほうへと伸ばしかけた指を、しかし、 ベリアンは必死に封じ込める。
(私は——、)
彼女をみつめたまま、唇をひらきかけた時。
「……主様」
すっ……と前方に影を落とす。視線を上げると、気遣わしげな瞳をしたナックが。
「どうしたの?」
瞬時に穏やかな笑みを作り、彼をみつめる。
と同時につい先刻までの切なげな空気は、一瞬にして消え去った。
穏やかにみつめてくる瞳に、彼は呟く。
「貴女は、ここにいるのですよ」
「!」
みひらく瞳に微笑んで、その手を取った。
大きく温かな手に包まれ、切なさの染みが霧散していく。
跪くと、たおやかなその手の甲に口付ける。
「貴女が時を忘れるほどに、私は、貴女とともに在りましょう」
膝を折ったまま、彼女を見上げて微笑んだ。
温かく、優しい眼差しに涙があふれた。
「! 主様」
ぽろぽろと頬を伝う雫に、すこしばかり焦ったように立ち上がる。
「ナックくん……主様を傷つけてはいけません」
そっと咎めるベリアン。それでわずかに滲む棘が、彼の胸を刺す。
そしてやや急いた様子で、ハンカチを差し出してきた。
「申し訳ございません、主様。
貴女を泣かせるつもりはなかったのです」
「ち、違うの、ふたりとも……。」
すぅ……吐息を吸い、温かさのしみた心臓を抑える。
「嬉しいの……。今までそう言ってもらえたこと、なかったから………。」
ぐっと目元を拭い、その唇が笑みを描いた。