第6章 相反☩そうはん☩感情
「誰……?」
その声に身動ぎもせずに、より腕に力が込められる。
彼女が息苦しさを感じぬよう配慮しつつも、その腕の力が解けることはない。
寧ろより強く抱きしめられ、その温もりに白い頬に雫が伝う。
けれど今度は悲しい涙ではなく、安堵の涙だった。
ぽろぽろと溢れるままに雫を伝わせていると、その腕がヴァリスを優しく抱き直す。
その所作とともにふわりと薫ったのは、図書室の古書の香り?
「フェネス……なの?」
その名を紡いだ途端、びくりと長身が跳ねる。
我に返ったようでさっと抱きしめていた指が解かれていった。
「すっ……すみません主様。俺は一体、何を………。」
謝るその目元に朱が集っている。
慌ててヴァリスから離れようとするフェネスの袖口を掴んだ。
「主様……?」
戸惑う声に唇をひらく。
「離れて、いかないで」
フェネスが吐息を封じる気配がした。
そしてやや遅れて自分の魔導服のシャツの袖口を掴んでいる指に、そっと自分の掌を重ねあわせる。
「大丈夫ですよ、主様。
あなたが望んでくれるなら、俺はずっとここにいますから、」
その言葉に、張り詰めていた心が解けていく。
涙の軌跡の残る頬を、その痕をたどるように、
彼の指が恐る恐るといった所作で触れられ、「くすぐったい」と唇が綻んだ。
その表情を見て、ほっとしたようにフェネスが瞳を解く
「やっと、微笑ってくれましたね」
そう言って、再度その指を伸ばしてくる。
けれどその指はヴァリスに触れる前に宙で止まり、何かを堪えるようにそっと下ろされた。
「フェネス……?」
戸惑う声にその唇が曖昧な笑みを描く。
フェネスはロノ下ろした右手を、左手の指を重ねあわせるようにして握り込んだ。
「俺は、あなたの執事ですから。あまり無闇に触れてはいけませんよね」
自分を納得させるよう、半ば言い聞かせているような口調だった。
ヴァリスは何も言わずにフェネスの手を取る。
そして彼を見上げて仄かに微笑んだ。
「大丈夫よ、もしその事で叱られたら、その時は私も一緒に怒られるから」
「主様……。」
その表情を見て、フェネスは瞳をみひらく。
そして、やや困ったように眉を寄せて微笑んだ。