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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



雪が積もっている山の中に存在しており、遭難しては危険だという理由から人はあまり近寄らない為、残念ながら実物は拝めそうにない。凪が残念そうに零すのを聞きながら、行商の男が明るい笑顔を浮かべてみせる。

「それでしたら、是非雪解けを迎えた春頃、またおいでください。その頃には山にも沢山春の伊吹が芽吹いていると思いますよ」
「とき、かみさまがいるいわ、みてみたい!」
「俺も興味があります」
「じゃあ暖かくなったら、皆でまた来ようね」
「ああ」
「わーい!」

行商の男の勧めに子供達や凪が楽しそうな面持ちを浮かべるのを目にし、光秀もまた穏やかに相槌を打った。無事稀少な薬草を手に入れた凪達が揃って行商人の前を後にする。

遠ざかっていく親子の後ろ姿を眺めていた男は、不意に先刻光秀から渡された金子を懐からちらりと取り出し、先程まで見せていた人好きのする表情から一変、何処か悪辣なものを面持ちへ含ませた。そうして金子を再びしまい込むと、底冷えする声で短く呟く。

「………まあ、その約束はもう一生叶わなくなるだろうがな」

冷たい男の声を聞き咎めるものはいない。行商人は目の前にある、先刻まで薬草が乗っていた木箱を乱雑に蹴ると、下卑た笑いを零しながら親子が歩き去った方とは別の道へ足を踏み出したのだった。


─────────────…


「ははうえ、とき、かわや」
「えっ!?大変……!宿まで戻るのは時間かかるし、集落の厠を借りよっか」
「うん……」

行商人と分かれてから程なく、光鴇が神妙な顔で凪の袖を引っ張った。暖かな格好をしているとはいえ、外は普通に寒い。そうなると必然的にもよおしてしまうものだ。はっとした様子で凪が目を丸くすると、すぐに周囲を見回した。

城下町などの比較的栄えている場所ならば一家にひとつは汲取式の厠が存在しているが、集落や村では共同の厠が設置されているだけという事が多い。凪達が泊まる温泉宿には確かに厠はあったものの、光鴇の様子を見る限り、そこまでは保ちそうにない。

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