第4章 自分の大切な人を心配させないように
グリュックの動きに合わせ、体を上下させながらアリアは近づいてくる家を見つめていた。
あと少しで我が家だ。
人にぶつからないようにグリュックの脚を緩め、街道を歩く。
楽しげに笑う人々の顔を眺めながら、アリアは数日前の、立体機動訓練のことを思い出していた。
いつものように立体機動装置を身につけ、訓練場へついた。
巨人の模型を前にするとどうしてもあの日の壁外調査のことが蘇り、足がすくむ。だが訓練は訓練だ。しなければならない。
軽く準備体操をし、グリップを握りしめた。
トンッ、と体が宙に浮いた。
以前まではこの感覚が好きだった。風を全身に浴び、鳥のように空を切るのが好きだった。
(でも、今は違う……)
頬に、手足にべったりとついた生ぬるい液体の感覚が蘇る。
仲間の断末魔が耳の中で木霊する。
カタカタ、と手が震えた。
(ダメダメ! 今思い出しちゃダメ)
今は訓練に集中しなければ。
目の前に現れた模型を避けるため、左のアンカーを射出する。
――巨人と遭遇した際は一度距離を取り、確実にうなじを削ぐためにアンカーを刺し直すのだ。
頭の中で訓練兵時代に散々聞いた教官の声が響いた。
何度も何度も繰り返した訓練のおかげで動きが染みついている。考えずとも動くことができていた。
巨人に右のアンカーを刺すために人差し指の腹でトリガーを引いた。
(……あれ!?)
しかし、アンカーが飛び出すことはなかった。
なにかが詰まったようにトリガーが固い。
すでに左のアンカーは木から抜かれていた。
つまり、今のアリアはなんの支えもない状態で宙に浮いている。
(…………あ)
落ちる。
このまま落ちれば、必ず死ぬ。骨折で済むとは思えない。
時が止まったようだった。
重力にならい、柔らかい人形のように体が沈んでいく。
「アリア!」
声が聞こえた。