• テキストサイズ

僕と彼女の声帯心理戦争

第2章 【第1章】前哨戦


昼間と同じ、硝子の声。ただ昼間の透き通る、今にも崩れて落ちそうな硝子では無く、まるでとても屈強な、決して壊れず、光り輝く鋭い武器の様に叫びを上げる。

司含めた一同が唖然とした。彼女の普段の性格からは考えられない位の感情と心の叫びがそこにはあった。喉が張り裂けるのではないか、と心配してしまいそうな程の声量が周囲を圧倒する。ライブ会場の様に閉じられた箱ではない。
野外であと少しもすれば100人に届こうかという人間相手に、それも疎らに座る観客相手に確実に届く程の、切り裂く声。

近くでひっそりと食事をしていた羽京もそうだった。昼間の物悲しい別れの歌とは一転して、今度は強い決意で新世界へと歩み出す力強い歌ーー

そして耳の良い羽京は声から微妙な変化も聴きとるが、その耳が彼女が本気で『どんな事があっても貴方と共に居る』と深い覚悟の叫びを聴きとった。嘘偽りない、真実の響き。昼までの会話には無く、歌の中にのみ存在する、本当の声。

(ーー綺麗だ)

彼女はその言葉通り、ずっと『歌』という形で愛する人と共に息をして、亡くなった後ですら歌という形で共に居た。そして歌が無くなれば、自分も潔く死のうとするーー
正直、昼間の宣戦布告を受けて、半信半疑だった。彼女がどういう存在なのか。でも、歌だけは。歌にだけは、彼女は嘘をつかないんじゃないか。ふとそう思った。

ーー夢のような壮大な歌が終わった。
葵は瞼を閉じたまま、曲が終わるとまるで糸の切れた人形の様に数秒動かなかった。
しん、と周りの静けさが聞こえる。
ふ、と瞼を開ける。「ありがとうございました」ぺこり、と昼に羽京に見せたご令嬢の様に足をクロスさせてふわりと目の前の聴衆に笑いかけた。

すると、ポカンと聞いていた聴衆がひとり、またひとりと拍手をし始めた。パチパチ、パチパチパチ…帝国の静かな食事の場に、拍手が湧く。

すげえ歌唱力…うめえ…!今の、俺らの状況にピッタリじゃん……!聴衆からはそんな声が盛れる。
「あ、あの!」聴衆だった帝国の1人の男性が叫ぶ。「もしかして……本っ当にもしかしてなんですけど、Aonnさんですか…!?」
「あっ、俺もそう思ってました!今の曲は初めて聞きました…!!新曲ですか!?」
「顔出ししてないですよね!今の生歌ですよね!?」
「お顔拝見出来て嬉しいです!!」続々と彼女のファンが名乗りを上げる。
/ 137ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp