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僕と彼女の声帯心理戦争

第1章 【プロローグ】宣戦布告


イヤな予感がしたのだ。本当に。
自分の性格はどうも他人との心の境界線……『心のバリア』なるものが薄く、敏感に他人の感情を感じ取る。それ故に他人の心に寄り添った気遣いが出来るーーというのが長所。
ちなみに占い師なんかにも多いらしい。
本当かは知らないが……少なくとも自分の『悪い予感』は当たった。それも予想以上の、残酷な形で。

右頬の自分の「石化復活者の証」であるヒビをぷにぷにといじる。そこには十字架の様に、右目から顎近くまで縦に一本。鼻先の横から少し距離を取って横にザシュッと耳まで線が伸びていた。横線がよくよく見ればちょっとギザギザしていて、正確な直線では無いが。

(神様なんて、いないのに)

「…………」

ぼんやりと空を見る。上手く笑えない自分に嫌気が刺して、口角の端っこに両手の人差し指を突っ込んでイーーーと声を出す。

(……私、表面くらいちゃんと笑えてるかな)

どうにも自信がない。先程の司の反応を見る限り、自分の抜群の『演技力』は健在の様だ。でも唯一気を許していた××君以外の前ではずっと他人の理想の姿を演じた所為だろうか。

笑えない。心から笑えないのだ。この声は他人が気持ち良いと感じる声も、反対に気分を悪くする声だって出せる。なのに笑えない。

羽京はこの情けない自分の姿も見てるんだろうな〜とそんな事をぼんやり思ってみる。
この新世界で、初めて出逢った人。
曇りのない綺麗な深い森を思わせる翠色の瞳、穏やかな表情、柔らかく包み込む様な優しい声。

ーー《綺麗だ》ーー

人から綺麗と見た目を褒められる自分なんかより、ずっと。

これまで接してきた人間達は、少なくとも自分の経験の限りでは多かれ少なかれ大した事ない嘘をちょっとずつついて自分を守っていた。
勿論、嘘をつくのが全て悪いことだとは思わない。

本当はマイノリティーな意見でも、マジョリティーに同調しないといけない。そんな時に嘘をついて場の雰囲気を悪くしない様にする。
自分の様に力を持っていた人間に対して、芸能関係者達がゴマすりの言葉をかけるのも、相手を気持ちよくさせようとする物だ。嘘も一つの『善意』だ。

応援してくれる皆、ファン達に感謝こそしつつ、それでもきっと飽きれば捨てられる、でもそういうものだと。良くも悪くも割り切る。
他の人間という存在に、あまり期待をしない。
それが私の価値観だった。
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