第11章 ラングラー
ー穂波sideー
「そんなことしてません! やましいこととちゃいます!」
治くんは切り替えスイッチを押されたかのように、ぴしっと、シャキッとしてる。
信介さんから電話があったみたい。
キャンプ場着いた、とか、
今買い物して帰るとこです、とか。
それで、今、大きな声でそんなことを。
…やましいこと。
やましいことは…… あああ…… しちゃった。
完全にもう、飲まれてたというか乗ってたというか。
駆け引きみたいな、エッチする前のあの… あの感じ、味わってしまってた。
これって完全に…
「浮気なんてさせません! どっちも本気やってあると思います!
それに研磨くんなら分かってくれる気しませんか!?」
『………』
治くん、なんてことを。
…どっちも本気。 浮ついた気持ちでは決して…… ないのは確かにほんとだ。
そんなのわたしが言ったって、ただの、そしてかなり往生際の悪い戯言だけど。
「あ、わかりました。 でもきついこと言わんとってくださいよ」
そう言って治くんはわたしに電話を差し出す。
アイスと交換をして、
『はい、もしもし』
「穂波ちゃん、治あないなこと言ってたけど大丈夫なんか?」
『…それは、わたしが決めることではないかもしれないです』
「まぁせやな。 でも仏の顔も三度まで、いうけど、
穂波ちゃんこれから離れて暮らすんやし、気いつけな無くしてまうものもあるんと違うか?」
…治くんはキスしただとかそういうこと、全く電話で言ってなかったのに、
信介さんはまるで全部見ていたかのようにそう、言う。
『はい。 今、ぴしゃんってほっぺ叩かれた気分です。 ごめんなさい』
「それも俺に言うことちゃうわ。 まぁ、2人には2人の信頼関係があるんやろうから、
俺がしゃしゃることちゃうけど、でもあれやろ。
穂波ちゃん、治のこと生理的にいうんか、動物的に言うんかわからんけど、好きやろ?」
ぼんやりと感じて、ぼんやりとしたままにしていたことを、
淡々と言い当てられて、頭から水をかぶったような心地。
ぎくり。