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泡沫は海に還す【twst】

第3章 2. 青空の涙


ここまで美しくはなかったが、灰色の森を抜けた先に白い橋が架かる海があった。

「……元の世界が懐かしくなっちゃったの?」
「…………」
婉曲という言葉を知らないフロイドの問いかけに、シェラは口を噤んで俯く。

ふたりの間に束の間の静寂が訪れる。

「あの海に還れば、私は元の世界に帰れたりしませんかね」

(私は今更何を言ってるんだろう)

シェラは目を伏せる。
それが叶わないことくらい、シェラは百も承知だった。
もしそんなことが出来ていれば、珊瑚の海に行った時に元の世界に帰れていたはずだ。

「元の世界の景色はぼんやりしてるんですけど、やっぱり、同じものがあると、懐かしく感じますね」
ぽつり、ぽつりと降り始めの雨のようにシェラは心の内を話す。
無意識のうちにフロイドの腹にまわした手で、彼の服をぎゅっと掴んでいた。

シェラ自身の記憶は水墨画の世界。薄墨で描いたように、涙で滲むように、輪郭がはっきりしない世界。
記憶が曖昧なのに、普段はそう思わないのに、何故だか今は元の世界がとても懐かしく恋しく思えた。

「小エビちゃん、ごめん」
普段とは違うシェラの様子に、一瞬振り向いたフロイドは申し訳なさそうに謝った。
しかしシェラは顔を上げて首を横に振った。

「いえ、フロイド先輩は何も悪くありません。あなたが空へ誘ってくれたから、こんなに綺麗な景色を見ることが出来たんですから。私の知る中で1番綺麗な景色を、ありがとうございます」
「でも」
「いいんです」
食い下がるフロイドにシェラは被せるように気にするなと言った。

今まで見てきたどんな景色よりも綺麗だと思ったのは本当で、そこに嘘は微塵もない。
そしてこの景色を見ることが出来たのは、こうしてフロイドがシェラを後ろに乗せて空を飛んでくれたおかげだ。
だから、フロイドが罪悪感を感じる必要はないのだ。
フロイドは何も悪くない。
それに、普段のフロイドからは想像出来ないくらい声が優しくて調子が狂ってしまいそうだ。

「この世界に来て、よかったです」

この話を終わらせようと、シェラは無理矢理口角を上げた歪な表情で静かに嘯いた。前を向いているフロイドからは見えない、だから分からない、そう思って。
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