第1章 はじまり
彼の腰から刀を抜き、服をぬがせ、暖かなホットタオルで拭いた。その間、彼は目を覚まさず、ただただ穏やかな表情をしていた。
「と、い、う、か、やっぱり匿ったの間違いだった……?」
私は震える。というのも、彼の身体には無数の傷がついていた。まるで何かに切り裂かれたような傷、小さいもの、大きいもの、腕や胸、背中、この現代令和の日本でこんなに傷だらけになることある?と頭を抱える。ライオンでも飼ってたのかな?なんて、そんなはずないか。やはり、抗争か?抗争があったのか?刀で?
「やっぱり危ない人なのかな……警察呼んだ方が良かったかな……」
いや、今からでも警察を呼んで事情を説明すれば私にはきっと罪は及ばない……じゃなかった、この人が私を恨んで殺しにくる可能性が………再び、頭をぐるぐると回る。
そんな私をつゆ知らず、彼はすやすやと寝息を立てている。先程まで玄関先で倒れていたにしてはあまりにも穏やかな眠りだ。
「なんでこんなに穏やかな表情をしてるんだろう」
私は漠然と目を覚まさない彼のことが気になった。全く根拠はなかったが、きっと、悪い人ではないんだろうなと思った。
一通り体を拭き終わったあと、引き出しからゆったり目のTシャツとスエットを着させた。私にとっては大きめのそれだったが、相手にとってはちょっと小さく、窮屈でないかと心配になったが、とりあえずこれで良しとした。とりあえず入るサイズがあってよかった。
「というか、明日が土曜日で本当に良かった……」
そう、今日は金曜日。月曜日から働いてクタクタだったのだ。まさか平日の最後にこんな重労働があるとは。眠っている彼に毛布をかけ、部屋の暖房をつけ、私は風呂の支度をし、部屋の電気を消した。
ちゃぷん……
湯船に浸かる。暖かい。今日は本当に寒い日だった。じんわりと身体が温まっていく。心の不安も少し楽になる。やはり人は風呂が大事だ。
彼が目を覚ましたら、何を話したらいいんだろう、そもそも目を覚ますだろうか、とりあえず明日の朝病院に連絡をした方が良いだろうか。
髪を洗い、風呂を出て髪を乾かし、着替えて彼の隣に敷いた布団に潜ると、一気に眠気がおしよせてきた。知らない人が隣で寝ているというのに私も随分呑気だな……なんて思いながらも、重たくなる瞼の重力には適わないのだった。