第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
「――【暗闇の最果てで 孤独を奏でた いつの日か 君に出会う日まで】」
歌い出した詞織に反応するように、伏黒や【玉犬】の動きが変わる。
伏黒の攻撃はキレが増し、拳や蹴りが鋭く放たれた。【玉犬】のスピードとパワーも上がり、残像すら見える。少なくとも、動体視力に自信がある虎杖も、【玉犬】の動きを追いきれない。
「【此処へおいで 君の名を歌おう いつまでも傍にいたいから 涙流し 肩を震わせる 君の声を包み込んで 口づけ交わそう】」
よく聞けば、詞織の歌っている曲を、虎杖は聞いたことがあった。少し前に流行った歌だ。映画の主題歌で、テレビでもよく流れていた。
しかし――……。
「詞織、なんで急に歌い出したんだ?」
「それが詞織の術式だからよ」
ポツリと呟いた虎杖に、星良が小さく笑う。
「あたしたち呪術師が使っている呪術は、先祖代々家系に受け継がれているもので、生まれつき身体に刻まれているものなの」
そう、星良は説明してくれた。
「詞織の術式は【歌楽具現術】っていって、歌うことでその歌に感じた自分の印象を具現化することができる」
歌は和歌でもJ‐POPでも、なんなら洋楽でも、何でもいいらしい。
そこで、「あれ」と疑問に思う。
「星良さんって、術を使うのに歌ってなかったじゃん」
「あぁ、それね。あたしのは【書字具現術】。書いた文字通りのことを具現化、もしくは実行できるわ」
「んー? 先祖代々なのに、違うの?」
「ごめんごめん。少し待って。えーっとね……」
頭の中で文章を考えるように、顎に人さし指を当てる。
その間にも、伏黒と詞織対星也の戦いは続いていた。しかし、二人は星也にダメージを与えられないどころか、攻撃すら掠らないようだ。
「両親が術師で術式を引き継ぐ場合、どちらかのものをもらうことになるわ。そうやって引き継いでいったら、家系には色んな術式が混ざることになるでしょ」
「あぁ、なるほど」
家系に刻まれる術式も一つではないということか。