第1章 一夜目.5時限目の空
二種類のチョコレート菓子と、ノートの山を机に置いて雑談は続く。こんなふうに面と向かい話す機会は、今まであまりなかった。近くに佇むエリを前に、意外と背が高いんだなと一織は感じていた。
「えりりんって、なんでいっつも遅刻してくんの?」
突如として環から放たれた疑問に、一織は内心ガッツポーズをした。こういうとき、彼の素直な性格は得である。口数が決して多くない一織には、なかなか出来ない芸当だ。
だがそんなファインプレーも、実を結ぶことはなかった。
『そろそろ私、職員室にこれ持って行かなくちゃ』
「おー。手伝おっか?」
『ありがとう。でも、大丈夫』
エリは分かりやすく、はぐらかす。環はまるで気付いていないが、明らかにその話題を敬遠したのだった。こうなるかもという懸念があったからこそ、一織はその質問を自分ではぶつけないでいたのだ。彼は一人静かに肩を落とす。
『あ、そのお菓子は全部食べちゃってね』
「いいの!?」
『うん。他クラスの男子からの貰い物だから、遠慮なく食べて』
「……なぁ知ってる?それって、えりりん餌付けされてん」
「どうぞ行ってください!可及的速やかに日直の責務を果たしてください!!」
『う、うん?』
一織はエリにノートを手渡すと、環が余計なことを言う前に送り出した。
「いおりん、なんか様子おかしくね?いきなしでっけー声出したり、あと、めっちゃソワソワしてっし。いつもと全然違う。
あ、もしかして…」
「な、なんですか?」
「もしかして、変なもんとか食った?」
「あなたは、本当に…食い気ばかりですね」
一織は、心ここに在らずで呟いた。さきほどノートを手渡した際、微かにエリの手に触れた指先だけが、じんわりといつまでも熱を持っていた。