第16章 柱と温泉
悲しい返答だが、人の家庭の事情へ安易な気持ちで踏み入ってはいけない。
杏寿郎は悲しげに目を伏せた後、更紗へ視線を戻す。
「そうか……だが更紗との指切りした約束は覚えてやっててくれ」
いつの日かしのぶの屋敷で更紗と交わした約束。
『笑顔を望むその人と生きて笑ってください。約束です』
その時の声が実弥の頭に響き、小さくため息を漏らした。
「分かってる。だが今はその時じゃねェんだよ。約束を破るつもりねぇから心配すんな……宇髄みたいにあいつを泣かせるつもりはないんでなァ」
やはりここでも天元は悪者にされていた。
特に杏寿郎は天元を悪者だとは思っていないので、冗談として実弥の言葉を受け取って笑みを零した。
「それならば何も言うまい!おっ!更紗が宇髄の背後をとった……が、あれはまずいな」
「あ"ぁ"……あれはまずいなァ。また宇髄があいつを泣かすぞ」
2人の不安は的中した。
不可抗力と言えど天元の頭へ木刀を直撃させ流血させた更紗は体を震わせて、今にも木刀を手から落としてしまいそうな程に動揺している。
「ここから持ち直さなければ更紗は負ける」
その言葉が現実にならないよう祈りながら、杏寿郎はこの後の展開を見守った。