第108章 待ってられるかそんなもん
そろそろレインボーアリーナに戻る時間だ。帰路に着く俺の足取りは軽い。ようやく、ようやくまともな見舞いが出来た。とても楽しい時間を過ごすこと出来た。
…って、違うだろう。俺は、ここへ和気藹々(わきあいあい)しに来たわけではない。エリと大切な話をすることが目的だったはず。
まぁ、数分で病室から追い出される展開よりは遥かにましであるのは確かだが。
「八乙女氏」
「!!」
背後から声を掛けて来たのは、まだ病室にいるはずのナギであった。
「六弥?どうしたんだ、何か…あったのか?」
彼の真顔に、思わずこちらの気も引き締まった。さきほど4人で歓談していた時の表情とはまるで違う。
「アナタに、伝えておきたいことがあります。少しだけ、お時間いいですか?」
「構わないぜ、少しなら」
直感的に、エリの話をされるのだと分かった。
「歩きながら話しましょう」
「あぁ。助かるよ」
一歩を踏み出すのと同時に、ナギは切り出した。
「彼女は、アナタのナイトですか?」
「……」
「分かっています。彼女が自ら望み、傷付いたこと。それを彼女自身が、使命であると思っていること。しかし、あまりの痛々しい姿に…ワタシの胸は、酷く締め付けられました」
「あいつがあんな怪我を負ったのは、俺のせいだ。俺の不注意が招いたことだからな」
怪我だけで済んだのは、むしろ幸いだった。下手をすれば、あいつは俺の代わりに死んでいたのだ。
愛する者が自分の代わりに命を差し出す。それを喜ぶ男が、果たしてこの世に存在するだろうか。