第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
私達は、一番近くのコンビニにやって来ていた。ドーナツ専門店ではないので、そう多く種類があるわけではない。だが楽は、焼き菓子コーナーの前でうんうんと唸る。
『もう全部買っていけば良いのでは?』
「いや、ちょっと待て。天の奴、俺のセンスがどうのって言ってただろ」
『コンビニのドーナツ選びで、センスを光らせるのは無理がありますって』
「そうは言ってもな…。仮に全種類買っていって、うわぁ。金に物言わせて全部買ったんだ?とか言われたら癪じゃねえか」
でかい図体の男が、ドーナツの前で真剣に悩む。いつまで経っても決められないその姿に、私はついに笑いを零してしまう。
『ふふ、もう本当に何でもいいですって。早く決めてくださいよ』
「だから、そう簡単に決められたら初めから悩んでねぇんだよ!なぁ、エリはどれがいいと思う?」
『んー。私だったら、このピンクのチョコがかかったこれを……」
って。え?いま、楽は…私のことを何と呼んだ?私は、まん丸にした目を楽の方へ向けた。すると彼は、バツが悪そうに頭をかきながら目線を泳がせた。
「あー…わるい。普通に間違えた」
『す…好きな女性と、私を間違えるなんて。何をやってるんですか』
「はは。でも、あんたもいつになくノリが良かったじゃねえか」
『き、聞き間違いかと思ったんですよ!』
楽はまた笑って、それから少しトーンを落として続けた。
「もうだいぶ前だけど、あいつともこうやって菓子を選んだことがあったんだ。まぁあの時はドーナツじゃなくてクレープだったし、悩んでたのは俺じゃなくてエリの方だったんだけどな」
楽の瞳が悲しそうだったから、私は、そうですかとしか言えなかった。
でももし仮に、知ってるよ。私も覚えているよ、と答えていたなら彼はどんな顔をするのだろうか。