第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
『転んでぶつけたんです』
「眼球を!?」
『そういう日もありますよ』
「いやいや、ないだろ」
この男のことだ。帰れと言ったところで、素直に聞き入れてくれるとは思えない。仕方ないので会話に付き合いつつ、核心に触れられないよう のらりくらり逃れ続けるとしよう。
「行くあてのない、兎みたいな顔をしてる。まさか、振られでもしたか?」
見事な一閃を入れられ、核心は木っ端微塵に砕け散った。
「…冗談のつもりだったが」
『ふふ、ふふふ。貴方が、面白いことを言うものだから、ちょ、ちょっと、乗っかってみただけですよ。私は振られてません』
「いや無理だろ今更。あんた、さっき凄い顔してたぞ」
言いながら、虎於は歩き出す。どこへ行くのかと見ていると、どうやら飲み物を準備し始めたようだ。手には紙コップが2つ。
『もう夜も遅いですけど。まさか、このまま居座る気ですか』
「時間は関係ないだろう。俺は、チャンスは確実に掴む男だぜ」
『チャンス?』
「ようやく狙った女が隙を見せたんだ。付け入る他ないだろ」
『…はぁ。貴方のその、人の不幸をチャンスだと言い切るところ嫌いじゃないですよ』
「そうだろ?」
『嫌味ですよ』
こちらに向けられた背中が、愉快そうに少し揺れる。
「ところで、珈琲フィルターが見当たらないんだが」
『それ、インスタントなのでフィルターは必要ありません』
「あぁ…、あの溶ける粉か」
彼はまた、ところで と言いながらこちらを振り向く。
「この粉は、どれくらいが適量なんだ」
『…私が淹れるので、貴方は座って待っていてください』
仕事に逃げる予定だったが、どうやらその必要はなくなりそうである。