第64章 大正“悲劇”ー終ー
不思議だ。足取りは確かに軽やかで、気分も軽かった。
ガラスに告げられた目的地に到着した時も、私は心ひとつ乱れていなかった。
そこは木と草の生い茂る場所でしたが、すぐ近くには民家の塀もあるような場所でした。よほどのことがない限り人目につくことのない、ひっそりとしたところでした。
私は夜へと影を落とす空を見上げていました。
思えば、もう随分と長く生きてきたものです。
私はここで死ぬ。死んだ後のことは、珠世さんと愈史郎さんに任せてありますから、心配はないのです。
ここに来る前に、あの二人の飼い猫の茶々丸に手紙を渡してきたので、もう大丈夫でしょう。
一度人間として死んだ私を愈史郎さんが血鬼術で回収。私は二人と鬼として生きていく…。そういうことになっています。
桜くんが見つけ出した鬼の味方。私がやるべきことはあの二人を鬼と鬼殺隊から守ること。
桜くんはずっとそうしていたそうです。あの二人は桜くんへの感謝をよく口にします。やはり、彼は凄い人でした。
秘密を秘密にしたまま死んでしまいました。君は本当に凄い。私にはできませんでした。
まだまだ何か隠していたようですが、それを知る日は来るのでしょうか。私は…。
「……私はもう…。」
完全に夜の色に染まった空を見ながら、ぽつりと呟いた。
「秘密にはうんざりですよ。」
そう呟くやすぐ、がさりと音がした。
それが誰かが草を踏む音だと分かった時には、もう腹部に痛みが走っていました。
ついにその時がきたのだと私は悟りました。
遺書を残し、継子に教えるべきことも教え、その末にあの子は柱になる権限を得た。私が死ねば、彼は柱になるでしょう。
「……ぇ…?」
「………すまない…」
彼は謝る。
私は笑った。
「…!」
腹部に刃が突き刺さっていた。
「な…」
「お前は………。すまない。」
どこかで聞いた声でした。
どこかで感じた気配でした。