第53章 落下
しばらくボーッとしていたら、夕日が川に沈んでいく様子がみえた。
そろそろ帰らなければと思って立ち上がった。冷たい風が吹いて、身に付けていたマフラーがゆれる。
寒い。
あぁ、ずっと川の近くにいたから。
「わぷっ」
一番強い風が吹いて、マフラーがひるがえる。バサバサと音をたてて髪も乱される。
マフラーをおさえようとしたとき、私の首は解放感を覚えた。
「あーーーーーーッ!!!」
緩めにぐるッと巻き付けただけのマフラーは、風に煽られ空高く舞い上がった。
そして、川に着水した。
「えええ、ちょ、まっま、待って!!」
私は鞄をドサッと投げてとっさにローファーと靴下を脱いだ。
川に足を突っ込む。冷たいし、川底の石が当たって痛い。
うっわ、これローファー脱がない方がよかった感じ??いやいや、はやくしないとマフラー沈んじゃう!!
あのマフラー、諦めきれない。
寒いだろうからって、おばあちゃんが買ってくれたんだもん。
マフラーを失くしたなんて言ったら、また悲しませちゃう。もうこれ以上あんな顔させたくないんだ。
ザブザブと音をたててマフラーに近づく度、からだが重くなる。水が深くなる。
私はもう半泣きだった。寒いし、水がたまらなく冷たいし、マフラーはもう半分沈んでるし。
精一杯手を伸ばしてマフラーをつかんだとき、私は腰まで水に浸かっていた。
「…さっむっ!!」
無理無理無理こんなの凍えて死ぬ。
はやく出ようと、振り返った。
「あんた、何やってんのー!」
ずいぶんと緊迫した声だった。
そこには桜くんがいた。焦りの表情でじいっと私を見ていた。いつのまにいたんだろうか。たまたま通りかかったんだろうけど、確かに真冬の川に人間がいたらそうなるか。
「マフラーとってたんだよっ!!!」
私は叫びながら慌てて陸へと戻っていった。