第818章 卵
「芸術は…
芸術は……
芸術はっ!!爆発だぁ~!!」
「うるせぇ!!何時だと思ってやがるっ!!」
俺が住んでいるアパートの隣室には、自称芸術家と名乗る神崎誠司が住んでいる。
こいつは、普段は人当たりもよく会えば普通に挨拶も出来るし世間話もする。
何度か一緒に飲みに行って友達になった。
いわゆる『良い奴』ではあるのだが、たまに真夜中にさっきの様な奇声を上げる。
「こっちは明日も仕事なんだよ!
夜更かしなんかしてられないだ!
静かにしろ!!」
俺は堪らず誠司の部屋のドアを叩いて抗議した。
ガチャ…
ドアが開き誠司が顔を出した。
「…すまない
行き詰まって…」
やたらと暗い顔をしていた。
「だからってこんな真夜中に吠えるんじゃねえよ
…何に行き詰まったんだ?」
「は、は…、腹が減って…、アイデアがまとまらないんだ…」
こいつは貧乏な芸術家のくせに食いしん坊でいつも腹を空かせていた。
「しょうがねぇなぁ…ちょっと待ってろ」
俺はキッチンからカップ麺を持ってきて誠司に渡した。
「これ食って寝ろ!」
「…ありがとう
…絵が売れたら10倍にして返すから…」
「売れるかどうか分からない絵なんかより、バイト代入ったら返せよ!」
誠司の絵は確かに上手いし、独特な雰囲気もある。
もしかしたら売れるかも知れないが、そんなのいつになるか分かったもんじゃない。
まあ、売れたらたっぷり奢ってもらうけどな。
end