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千分の一話噺

第808章 太陽と下駄と向日葵と…


庭に向日葵の種を撒いた。
夏になれば花が咲くように…。


あの人はいつも下駄を履いていた。
カランコロンと鳴らしながら歩くのが好きな人だった。

「やっぱり夏は甚平と下駄だね」
「…下駄はいつもじゃない」
冬でも足袋を履いて下駄で出掛ける。
「それもそうだな」
冬はジーンズに足袋に下駄という奇妙なスタイルになるが本人はどこ吹く風のように気にしていない。

カランコロン…

アスファルトに響く下駄。
「…ねぇ、いつから下駄履きなの?」
「子供の頃、親父の真似してね…
親父の下駄だったからよく転んだよ
でもその度に親父から言われるんだ…
何回失敗して転んでもかまわない、ちゃんと立ち上がって進む奴が成功するんだってね」
天を見上げて懐かしんだ。

カランコロン…。

「…そろそろ庭に向日葵の種蒔こうか」
夏には毎年、庭に向日葵が咲く。
「ほんとに向日葵好きよね?」
「太陽に向かって大輪の花を咲かせるっていうのが良いじゃないか」
向日葵のような笑顔で答える。

カランコロン…。

「…この下駄、…棺桶に入れてくれよ」
「弱気な事を言わないの…
何回転んでも立ち上がるんでしょ?」
私は出来るだけ平静を装った。
「それと…、夏には向日葵を…」
「一緒に種蒔きするんでしょ」

「…うん、…太陽のような君と…」

あの人の最後の言葉だ。

また向日葵が咲く夏が来る。


end

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