第5章 見返りはパン以外で
処方箋を受け取ったムギたちは、その後薬局で薬を貰い、再びタクシーに乗り込んだ。
診察費、薬代、タクシー代を合わせるとけっこうな出費になってしまったけれど、健康を金で買えるのなら安い額だ。
当初と違ってムギがそう考えるようになったのは、くれはの診察が素晴らしく鮮やかな手腕だったからだろう。
今までムギが通院したことがある病院は、残念ながらハズレだったと言わざるを得ない。
「……おい、辛いのか?」
「いえ……、大丈夫です。」
タクシーの中で目を瞑っていたムギは、ローの声に反応して目蓋を開けた。
正直に言えば、辛い。
たぶん熱が上がってきていて、騒いだせいか頭痛も激しさを増している。
「辛抱しろ、あと少しで着く。」
はい、と返事をしかけて考えた。
そういえば、どこへ向かっているのだろう。
雰囲気からして帰宅途中みたいだけど、ムギはローに家の場所を教えていない。
「……あの、わたしたち、どこに向かってますか?」
なんだか嫌な予感がして尋ねてみたら、ローは至極当然といった様子で行き先を口にする。
「うちのマンションだ。」
……うち?
「うちって、誰の……?」
「俺の家に決まってんだろ。お前の家の住所は知らない。」
あ、なんだろ、すごい頭痛がする。
「えっとですね、わたしの家の住所は……。」
「もういい、着いた。」
タイミングが良いのか悪いのか、タクシーはとあるマンションの下で停車した。
そのまま降りずに自宅へ向かえばよかったものを、ローに急かされてムギも下車する。
この時初めて、ムギは昨夜ローに送ってもらわなかったことを後悔したのであった。