第6章 傀儡師
バキバキバキ、と崩れ落ちる厭な音が遠くに聞こえた。そう云えばこの倉庫は燃えているのだった。そこで初めてこの空間の中が暑い事に気付く。足と額に流れる生温いものは汗だろうか。
そんな現実逃避をする間もなく、床に飛んだ脳味噌と血がわたしの視界に飛び込んだ。其れ等は間違い無く、わたしの兄の物だった。
「お兄、ちゃん……?」
呆然と呟く。待ってよ、未だ話してない事一杯有るのに。仕事掛け持ちしてる事だって、友達が沢山出来た事だって、──恋人がいる事だって話してない。
未だ何一つ話してないよ、お兄ちゃん。
「妹を庇って死んだか……。役立たずの虫けらにしては華々しい最期じゃないか」
仮面男は心底楽しそうに云った。まるで自分は何も間違ってはいないと云うかの様に。其の言葉を聴いた瞬間、わたしの脳味噌は怒りと憎しみで煮えくり返った。
「……虫けら、ですって?」
わたしはしゃがみ込んで頭が銃弾で吹っ飛んでいる兄を胸にかき抱き、直ぐに足に力を入れて立ち上がった。ぶしゅ、と横腹から嫌な音がした。そうだ、わたしは撃たれていたのだった。もう仮面男が何処にいるかも分からない。視界は少しずつ濁り始めていた。
「此の人を……お兄ちゃんを、虫けらですって?」
「虫けらを虫けらと呼んで何が悪い? お前の兄は最後の最後で儂を裏切ったのだ、役立たずと呼んで何が悪い!!!」
「わたしの兄よ! お前が虫けらなんて云って善い男じゃないわ!!!!」
ぶしゅ。また血が吹き出した。呼吸が浅くなる。腹が痛い。でも其の痛みすらもう麻痺し始めている。だから此の震えが怒りからなのか痛みからなのか判らない。判らないなりに声を張り上げた。
「お前なんかが……お前なんかが此の人を虫けらと呼ぶ権利はないッ!!!!!!」
わたしは兄を抱いたままライブラリを起動した。
「な……ま、まさか」
わたしがどうなろうと知ったこっちゃない。わたしの頭の中は此の男への憎しみで一杯だった。
お兄ちゃんを虫けら呼ばわりした此の男を、太宰さんをわたしから奪って傷付けた此の男を、わたしは許さない。
もう如何なったって善い、この男を確実に殺せるのなら。憎しみと怒りと震えに任せて、わたしは禁忌を唱えた。
「異能『ライブラリ・始まりの女王』!」
その瞬間、パァっと目の前が光に包まれた。