第3章 一章
「おお、よう来てくれた。とりあえず座りなさい。」
「はい、失礼します。」
総帥がそう言って促す。一礼して空いてる席に座る。
「それでお話というのは?先生からは試験内容についての事と聞き及んでいますが?」
着席した後、周囲を見渡す。
好々爺然とした老人は凪のような穏やかな笑みを浮かべてお茶を啜っている。深い赤紫色の着物に銀鼠色の羽織に付けられた飾り紐の先には大輪の花が彫り込まれた金色の根付が輝いていた。所作と合い余りとても高貴な方のように思え萎縮してしまう。
その右隣に座っている女性は老人の娘か秘書だろうか?
レース地の襟が可愛らしい下ろしたてのスーツを纏い、長い脚を惜しげなく見せるように脚を組んでいる。髪は緩く編み込まれ横に流していて片耳に付けられた深緑色の石のはめ込まれた耳飾りが一際輝いて見える。
先程からニコニコと笑っているように見えていたが緊張しているのか表情が引きつってるように見える。
そして最後、顔色が悪い男は近くで見てもやはり土気色の顔色であった。ボサボサ髪に見えた髪は長く後頭部の中央でしっかりと結い上げられており、その色は煤色と呼ばれる明るい黄色味がかった灰色。目元に真っ黒な隈が出来た瞳は仄暗い黒で木漏れ日を浴びると僅かに紫がかって見える。
服装はダボついた皺の寄ったワイシャツにベストに黒のスラックス、『起き抜け、もしくは三徹したサラリーマン』という言葉が瞬時に浮かぶような出で立ち。スーツはしわくちゃなのにその首元を飾る深紫色のネクタイと藤色の小さな石がはめ込まれたネクタイピンだけが綺麗である所からどちらかというと『起き抜け』の方が優勢だ。
ともかく、こんなチグハグな人間、理事には見えない。
そもそも、理事であるとしても何故、私を?というのもやはり疑問であった。
「ふむ、実はな、今年の3年生の試験なんだが」
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「失礼します。」
話が終わり、一礼して出て行く神菜。その手に持っているのは分厚い紙の束。もう一度その紙の束を見て深々と溜息を零してからその場を離れるのであった。