第3章 一章
『やーん、物を投げないでくださーい。』
実況者はステージ中央にいるため投げ込まれた物が沢山そちら目掛けて飛んでくる。
「失礼・・ちょっと借りる」「えっ!?あ、はい」
こちらにも多少ゴミやら飛んでくる事に辟易しながら、幸平が使用している調理台に近づいて鍋蓋を取り出す。
それ使って器用に物を避けて実況者に近づいていき、飛んでくる物から庇ってやる。
「大丈夫?」『ひゃい、ありがとうございます。』
涙目でこちらを見上げる女の子。パッチリと大きな目に、上品に纏められた髪につけられたピンクのリボン。大和撫子と呼ぶに相応しい。清楚で愛らしい顔立ちの女子生徒を神菜はジィーと目を向けていた。何処かで見た覚えがある。
『あ、あのー』
不安そうにこちらを見つめる顔。自慢にならないがこのマンモス学校で過ごした時間はそれなりにあるが、人数も多いし現高1の下級生との面識はほとんどない。が、これだけの容姿だ。
認識があれば覚えている筈なのだが、一体何処で会っただろうか。
思考を巡らせていた時、米神に痛みが走る。その直後金属性の甲高い音が響く。
思わず眉を寄せてそちらを見ると空き缶が転がっている。
『!!?』「ひっ!大丈夫ですか?」「先輩!?」
蒼ざめて自分に近づいてくる。小西君に田所さん。
「ん?どうしたの?」「どうしたのって先輩その血」
指を刺された場所に手をやると、ヌルリ、と生暖かい水が付着。
先程の空き缶で切ったのか、否、飲み終えて投げ込まれたモノにそれほどの威力はない。不穏な気配がしてそこを睨みつける。
「あの、こ、ここコレ、早く止血した方がいいべ」
差し出してきた可愛らしい刺繍のハンカチ。
それをやんわりと断り、実況者の方に手を差し出してマイクを貰う。
「おい、今、物騒なもん投げ入れた無作法者はオモテ出ろ。」
先程まで野次が飛び交っていた会場内が静まり返った。それほどまでに彼女の発した抑揚のない声は酷く静かで威圧的だった事と、
「聞こえなかった。そこに立ってるお前に言ってる。さっさとオモテ出ろ」
米神が鋭利なものでバックリ、切れている為か、滴る血が頬を伝い、床を汚していた。余りに痛々しかった。しかし、女は気にすることなくそれから目を逸らさなかった。
常人には見えぬソレが姿を消すまで睨みつけていた。