第34章 おかえり
退却を始めた時にはすでに暮れかかっていた夕陽が、ついに沈んだ。
平原一体は、まるでランプの灯りを消したかのように薄暗さで包まれる。私達は即席の松明を灯すと、馬を徐行させながら進んだ。
暗闇の中を馬でひたすらに走る。今夜は雲が多くて、月明かりもほとんど無い。真っ暗闇の中を松明の僅かな灯りを頼りに進んでいく道のりは、果てしなく長く感じたが、逆にそれで良かった。走ることだけに集中することができて、ゴチャゴチャと考えないで済むから。考える時間があったとしたら、心が破裂してしまうかもしれない。…それくらい、いっぺんに色んなことが起こりすぎた。
その内、向こうの方に小さな灯りが見えてきた。無数に見えるあの光は、きっと迎えに来てくれた兵士達の灯した松明だろう。ようやく壁に戻ってこられたのだと、私はホッと息を吐いた。
安心した途端、今更になってから私の全身はブルブルと震え始めた。手綱を握る手が震える…。
(しっかりしろ)
兵長の怒号が聞こえたような気がして、私は思わず背筋を伸ばした。チラリと振り返ると、すぐ後ろを走っていたエレンと目が合って、彼は不思議そうに首をかしげた。
「何でもないよ」と慌てて取り繕って私は前を向く。ここに兵長がいない事なんて分かりきっているのに、あんな幻聴を聞くなんて。でも…きっと兵長がここにいたら、そう叱ってくれるだろうな。
私は手綱を握り直した。もう少し…もう少しで兵長のもとに帰れる。