【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
八重が目の端を赤くしながら退室すると、京香もすぐに後を追おうとした。
しかし、それを赤葦が止める。
「姉さん、待ってください」
八重が自室に戻るなら、京香もついていって寝支度の手伝いをしなければならない。
どうして止めるのかと疑問に思い振り返ると、赤葦は光太郎に向かって頭を下げていた。
「八重様はまだ混乱されているご様子。今夜はお一人にしない方が良いでしょう」
それは京香も分かっている。
だから早く追いかけたいのに、なぜ足止めをするのか。
「私に行かせてもらえませんか、旦那様」
その瞬間、京香の心臓がドクンと大きく鳴った。
それは光太郎も少なからず同じだったようで、いつにもまして目を丸くしながら赤葦を見ている。
「京治、何を言っているの? いくら貴方だからって、八重様の寝室に男性が入れるわけないでしょう」
「分かっています。だから、旦那様の“お許し”をいただきたいのです」
赤葦は漆黒の瞳を光太郎に向けていた。
口調は穏やかながら、一歩も引く気はない。
「───今夜は私に八重様のおそばにいさせてください」
悲しい目をした梟は、静かに翼を広げる。
大切なものが傷つかないよう、その翼を盾とするために。
「その代わり、姉さんは旦那様のそばにいてあげてください」
見えなくていいものを、見せなくていいものを、全て覆い隠すために。
「今・・・“光太郎さん”のそばにいるべきなのは、俺じゃなく姉さんでしょう」
赤葦はそう言って、ゆっくりと微笑んだ。
光太郎さん・・・
俺と姉さんの光───
貴方の存在は時に残酷だ。
「分かった・・・八重のそばにいてやってくれ、赤葦」
「ありがとうございます」
その一閃で俺の目をくらませ、
その残光で俺を縛りつける。
───赤葦京治を木兎家から出すな。
この世に生を受けたその瞬間から、自分の生き方は決まっている。
この身体は指一本、髪一本にいたるまで木兎家のもの。
「おやすみなさい、光太郎さん」
足元から暗く澱んだ闇を背後へ広げながら・・・
赤葦は儚げに微笑んでいた。