第9章 動物園でご対面
広いとは言いがたいスペースの中に、土と草と木の台と、そしてパンダの親子はいた。
小さなパンダの子どもは今がちょうど活動時間帯らしく、トタトタと元気一杯そこらを駆け回っていた。短い手足を懸命に交差させて母親の後をついて回り、木に登り、たびたびスッテンコロリンと転がり、へちゃりと尻餅をつく。その姿ときたら、まるで歩く大福餅である。
「かっ…かわいい〜!」
私は顔のニヤニヤを抑えられなかった。
周囲の人も口々にかわいい、かわいいとカメラのシャッターを切り続ける。仕方ないよね、かわいすぎるもん。
こんなにかわいいって言ってたら、また伊豆くんに嫉妬されちゃうかな?なんたって彼はエプロンに描かれたパンダのイラストを私が見ただけでプンプンするんだから。
そう思って伊豆くんの方をチラと見た。
彼は…眉根にシワを寄せていた。
寂しげというか、物憂げというか。例えばお気に入りのコップなど割ってしまったらこんな顔になるんじゃないか、そういう表情をしていた。パンダを見ているのか、いないのか、それすら判別つかなかった。
…なんで?
彼のそんな顔を見たのは初めてのような気がして、私は慌てて彼から目を逸らし、パンダに向き直った。でももう、子パンダかわいいなんて思う余裕はなかった。
一体伊豆くんは、何を思ってあんな顔をしているのだろう。
楽しそうにパンダを見つめる人々の間で、伊豆くんは1人だけ浮いていた。人間とパンダ男とで、何か感じ方が違うのだろうか。
それがわからない私は、少し寂しさを覚えながらパンダ舎の前に立ち続けた。