愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第2章 暗送秋波
緋色の毛氈(もうせん)が掛けられた縁台に並んで腰掛ける。
すると、店の奥から小さな丸盆に、皹(ひび)の入った湯呑み茶碗を二つ乗せた、若い娘が飛び出して来る。
「団子を二本貰えるか」
生温いお茶が波々と注がれた湯呑みを受け取り、雅紀さんが若い娘に微笑みかける。
その紳士を絵に書いたような振る舞いに、うら若い娘の顔は朱に染まり、まるで羽根でも生えたかのように下駄を鳴らして店の奥に入って行った。
僕は辺りに人の気配が無いことを確認してから、雅紀さんの手に自分の手を重ねた。
頬を出来る限り膨らませると、頬を緩ませた雅紀さんの顔を、拗ねた素振りで見上げた。
「雅紀さんの意地悪・・。僕が隣にいるのに、若い娘に色目なんて使って・・。酷い人・・」
「色目など私は・・。私の心を占めているのは、智・・お前だけなのに・・」
重ねた僕の手が、大きな二つの手に包まれ、今にも引き寄せられそうになった、その時・・
「はい、お待たせ」
さっきの若い娘とは違う、年増の女が団子の乗った皿を、僕と雅紀さんの間に、荒々しく置いた。
そして団子のように丸い鼻をフンと鳴らすと、まるで地面が割れるんではないかと思えるくらい、下駄の踵を打ち鳴らして、店の奥へと消えた。
あの年増の女には、僕は金持ちの男に媚を売り、色目を使って心を惑わす、陰間のように映ったのだろうか・・
「気に病むことはない。さあ・・・・」
そう言って雅紀さんが僕の手に団子を握らせた。
「僕は何とも・・。ただ雅紀さんのお立場が・・」
「私の立場など、君が案ずることはないよ。それよりも、少し風が出てきたようだ。そろそろ屋敷に戻ろうか?」
「はい」
頷いた僕の足元を、一陣の風が吹き抜け、外套の裾を踊らせた。
まるで僕の中の、僅かに残った人としての感情まで攫って行くように・・・・
屋敷に戻った僕は、障子窓の向こうの木の枝に、小さな紙が括られているのを見つけた。
それは、和也からの手紙で・・
計画の進行状況を知らせる物だった。
僕はその晩、家を追われた時に、唯一持って出た大振りの鞄に、必要な物だけを詰め込んだ。
何時でもこの檻から逃げ出せるようにと・・・・