第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
“さようなら、愛する娘。どうか一つだけ約束して”
貴方の涙は、争いや悲劇を生む。
それを見守ることしかできず、貴方は苦しむでしょう。
どうか心穏やかに、笑顔を絶やさずに。
それはすなわち、“幸せでいる”ということ。
母の願いはそれだけです。
お母さん。
約束を守れない娘をどうか許して。
争いや悲劇が生まれても・・・
それをどうすることもできなくても・・・
私は、目の前にいるこの人のために何もできないでいる方が苦しいの。
クレイオの瞳から涙が零れようとした、その時だった。
「ば・・・っかやろう!!!」
バチンッという音がしたかと思うと、突然視界が暗くなる。
ロシナンテの大きな右手がクレイオの両目を塞いでいるということに気づいたのは、音が響いてから10秒後のことだった。
「泣くな!! 泣くんじゃねェ!!」
瞼を決して開けさせまいとする手はとても熱く、少しだけ震えていた。
「なに勝手に泣こうとしてんだ、クレイオ!! おれの話はまだ終わってねェぞ!!」
「ロ、ロシナンテ・・・?」
お・・・怒ってる・・・?
どうして・・・?
恐る恐るロシナンテの手をどけようとしたものの、その力が強すぎてなかなか放してくれない。
目隠しをされた状態だから彼がどんな表情をしているかも分からず、クレイオはただ戸惑っていた。
「ロシナンテ、放して・・・! じゃないと、涙をうまく流せない」
「じゃあ、その涙が引っ込んで二度と出てこなくなるまで放さない!」
「どうして? だって真珠があれば貴方は」
「───真珠なんかいらねェんだよ!!」
それは思ってもみない言葉だった。