第16章 緋色の夢 〔Ⅰ〕
ハイリアが男と大きく距離をとった瞬間、元いた場所から湧き上がったのは青い炎の柱だった。
男の叫び声が聞こえて、そのまま姿が見えなくなる。
青ざめるハイリアの前で、炎は勢いを増して燃え上がり、うねうねと揺れ動いた。
やがて火柱は収まったとき、そこにいたはずの男は消えていた。そして、変わりに目の前に現れたのは巨大な大蛇だった。
大人でさえも一呑みにしてしまうような大きさの蛇は、体の表面に青白い炎をまとっていた。
まさか、先程の火柱は、この大蛇だったのだろうか。
大蛇はハイリアを見るなり、口を大きく開けて飛び込んできた。
迫る大蛇を見て、ハイリアは左手にマゴイを溜めた。そして、左腕を動かそうとした瞬間、手に力が入らないことに気づいた。
慌てて体を捻らせながら大蛇の攻撃を避けると、炎の蛇は勢いよく脇を通り過ぎていった。
後ろの岩盤に向かって、頭を突っ込んでいった大蛇の姿が横目に見え、岩の砕ける音が響き渡った。
動かなかった左腕を見ると、いつの間にか皮膚にうっすらと赤い斑点が浮かび上がっていた。腫れている右腕にも同じものが浮かび上がっている。
もしかすると、全身に斑点は浮き出ているのかもしれない。
きっと、あの時の毒だ。気づかないうちに、全身に回ったらしい。
大蛇は砕けた岩盤から頭を起こすと、再び襲いかかろうと、こちらに狙いを定めていた。
腕が使えないのでは、足で攻撃するしか方法はないが、蹴り技はあまり得意じゃない。
だいたい、毒が回っているならば、この足がいつまで動くかもわからない。
考えている余裕もなく、大蛇はハイリアへ向かって、口から青い炎をはき出してきた。
すぐさま駆けだして力強く踏み込むと、ハイリアは洞窟の岩壁を利用して、上へ大きく飛び上がった。
青い炎を避け、両足にマゴイを溜め、大蛇の頭めがけて飛び降りる。そして、上から力いっぱい踏みつけた!
蛇の頭が大きくへこみ、硬い岩盤に押し込まれ、地面が音を立ててひび割れた。
大蛇がまとう青い炎が足の皮膚を焼き、ハイリアは思わず呻いた。
硬い地面に頭を突き刺して動かなくなった大蛇を確認すると、ハイリアは急いでその体から飛び降りた。足裏は赤く焼けただれていた。