第14章 わからない人
どれくらいの間そうしていただろう。
中也さんの執務室の隣にあった物置にこっそり設けてもらった個人のスペース…勿論ベッドなどというもののないその殺風景としか言えないような部屋には必要最低限の物しか置いてはいない。
そこまで広いわけでもないその部屋の奥の隅に座り込んで、何も考えないようにとしている内に眠ってしまっていた。
『…お仕事、進めとこ』
さっきあれだけ酷い対応をしてきてしまったんだ、それくらいの事はしておかなきゃ、私がわざわざ秘書になんて無理を言った意味が無い。
パソコンを立ち上げて淡々と作業を進める。
こうしていれば何も考えずに済むし、のめり込んでしまえば何も気にならない。
その上中也さんの手伝いにもなれるんならそれでいいじゃないか。
そこまで考えて、ふとカルマの事を思い出した。
『……!そうだ、今日まだご飯作ってきてなかっ…!』
カルマの家にお世話になり始めてから、ご飯は三食私が作るようになっていた。
私は食事の時間がずれるために一緒に食べる事はなかった…というか同じ時間にいないようにしていたのだけれど、あの子も放っておいたら何を食べてるか分からない。
購買のものばかりを食べている普段のお昼からしても嫌な予感がする。
それで携帯を確認してみると、意外な事に向こうの方から連絡が入っていた。
内容はごく簡単なもので、イトナ君を無事助ける事が出来たということ。
そして、ご飯は殺せんせーが奢ってくれるらしく、心配せずともたらふくいっぱい食べていくからということ。
……殺せんせーのお財布の方が心配だ。
あの先生給料日前にはティッシュを唐揚げにして食べるような人なのに。
まあ何にせよ大丈夫そうな気はしてきたので、ホッと胸を撫で下ろして携帯を閉じた。
丁度その時の事。
扉が軽く三回ノックされ、蝶、と声がかけられる。
その声は立原のもので、今の私からしてみればこれもまた少しだけリラックス出来るものだった。
『何立原、どうしたの?』
扉を開けて立原を見ると、目を見開いて驚かれた。
「おま…ひでぇ顔んなってんぞ、また泣いたか?とりあえず目元と……頬が気になるから冷やそう」
『!別に冷やさなくても!!』
「女が顔ぐちゃぐちゃにしてんじゃねえっつの。折角綺麗なんだ、泣いてばっかじゃ勿体ねぇ」
言われた言葉はあの人のものにそっくりだった。
