第7章 咲弥という守護者(2)
「咲弥です。開けてもよろしいでしょうか」
廊下で膝をついて審神者の部屋の前で声をかけても、いつまでたっても返事はない。
だが、室内で荒い息が聴こえたように思える。
「失礼いたします!」
焦って障子を開ければ、畳にうつ伏せで倒れている審神者の姿が。
「!」
駆け寄って抱き起こせば、ふう、ふう、と苦しそうな息遣いで、審神者はうっすらと瞳を開いた。
「寝室に行きましょう」
「咲弥さん……」
少し掠れた声。顔色は真っ白と言っても良いほどに青ざめている。それが彼女の美しさを更に際立たせているように見えるのが、どうにも悲しく思える。
「はい」
「少しだけ……結界を……弱めていただけますか……?」
「えぇ?」
一体こんな時に何を言い出すのか、と彼女を抱き起こした束穂は間抜けな声をあげた。
「今、何か、強くなさった、でしょう」
「え、あ、はい……」
そんなことを彼女が感じ取っていたのか、と初めて知って束穂はどきりとする。
「ごめんなさい……結界が強くなると……なんだか、息苦しくて……」
「!」
「ごめんなさい……弱くて……ごめんなさい……」
一瞬息を止める束穂。
まさか。
ここ最近彼女の調子が悪かったのは、自分の力のせいだったのか。
あまりのショックに頭が真っ白になる。息も絶え絶えな、けれどもそんな状態でも美しい審神者の長いまつ毛をぼんやりと見つめるだけの空虚な時間。
「……咲弥さん……?」
「!」
名を呼ばれて我に返り、束穂は僅かに結界を緩めた。
そうすることで、外側にいる「何か」は、自分の力で結界を破ったと勘違いしたのか更に強くぶつかってくる。けれど、層を少し薄く弱めたからといって自分の結界は破られはしない。束穂は強く自分に言い聞かせて、審神者を寝室に連れていった。
「ありがとうございます……」
審神者のその礼は、結界を弱めたことへなのか、寝室に連れてきたことへなのか、束穂にはよくわからなかった。
「少し、眠れば、大丈夫……」
そうぽつりと言いながら、審神者は既に寝息を立て始めていた。束穂は静かに襖を閉めて部屋から離れながら、じわり、と両目に涙を浮かべた。
ああ、きっと。
自分が力を強めた時に、彼女は倒れたのだろう。
どうして気づかなかったのか。だから、昼間だけ調子が悪かったのだ、今まで……。