My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
慌てて背を向けた青年は、群衆の中を掻き分け進む。
目指す先は群衆を抜けた場所ではなく、どうやら狭い裏路地のようだった。
(駄目だ、あそこに入られたら逃げられる!)
前回も一瞬目を離した隙に、忽然と姿を消していた青年。
一時足りとも目を逸らす訳にはいかない。
食い入るように目で追う雪の視界に、金色の光が瞬く。
同じに赤毛を追っていたティムキャンピーが、何かを主張するように飛び跳ねていた。
「あれは───…」
それは赤毛の青年に向けてではなく、斜め前方。
ぶちりぶちりと人の皮を破り捨てながら盛り上がるように体を巨大化させていく、人成らざるものに向けて。
「(AKUMAだ…!)クロウリー!北北東角度40度!」
「む?」
「私を投げて!AKUMAが!」
進むAKUMAの先には赤毛の青年がいる。
このまま鉢合わせてしまえば、最悪の事態も招兼ねない。
「AKUMA相手に人間であるお前は───」
「私はッただの人間じゃないから!」
時間がないと急かす気持ちが言葉を躊躇させなかった。
こうもはっきりとノアであることを認めた言葉を、クロウリーの前で口にしたことはない。
雪の剣幕にクロウリーの鋭い目が止まる。
「クロウリーと同じだよ…!だから大丈夫、そのくらいで死なない!」
死ぬつもりなど毛頭ない。
自己犠牲などするつもりもない。
この時間のない決断の中で思い付く最善の方法が、それしかなかっただけだ。
「後始末は任せたけどねッ」
「…フッいいだろう」
潔も良いが念押しも忘れない。
雪の決断にクロウリーの判断もまた早かった。
「遠慮はせんぞ、食い縛れ!」
「ッ!」
建物の壁に片手で自身を支えてぶら下がったまま、脇に抱えていた雪の体を大きく振り被る。
軽々と投げ飛ばされた雪の体は、正確な狙いで一直線にAKUMAへと向かった。
強風を受けつつも、雪は決して目を閉じなかった。
しかと狙いを見定めたまま腕を広げる。
「んあ?───ゲッ!?」
気配を察知したAKUMAが頭を向けた時、雪の腕はその太い首を捉えていた。
広げた腕がフックのように首へと掛かり、勢いでAKUMAの体を頭から後方へと引っくり返す。